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TikTok が毎週発行する、媒体社向け「メルマガ」の中身:ハッシュタグトレンドを先行共有

新たなプラットフォームが登場するたび、メディア企業は新たに学ぶ必要に迫られる。パブリッシャーと個人動画クリエイターにとって重要なプラットフォームのなかではもっとも新しいTikTok(ティックトック)は、この調整期間を短縮する試みに乗りだしている。

TikTokメールマガジンを毎週、厳選したメディア企業に送付。同プラットフォームがその翌週にDiscover(ディスカバー)タブで推すトレンドハッシュタグを伝えていると、同メルマガを受信するメディア企業4社の情報筋は語る。

ハッシュタグTikTokの急成長を可能にした一因であり、毎週木曜日に発行されるこのメールマガジンには、そんなハッシュタグトレンドが10近くリストアップされている。各ハッシュタグには既存投稿動画へのリンクが貼ってあり、トレンドに即した動画の一例として、パブリッシャーやクリエイターが参考に出来るようになっている。同社はまた、各ハッシュタグのDiscoverタブにおける紹介開始日も併せて共有。Discoverはインスタグラム(Instagram)のExploreタブのTikTok版であり、投稿動画を人気ハッシュタグ別に収めている。

もっとも、TikTokがこのメールマガジンの発行を始めた時期や、発信先リストに載るメディア企業数は明らかにされていない。TikTokを積極的に利用しているにもかかわらずメルマガが来ないメディア企業が複数いる一方、TikTokを利用していないがメルマガは送られてくるメディア企業も複数いる。これについて、TikTokの広報はコメントできないとしている。

いずれにせよ、インスタグラムやSnapchat(スナップチャット)、YouTubeらのライバルとして急速にその存在感を増してきたが、オーディエンスの維持に苦労しているとも言われるTikTokにとって、このメルマガ発行は好判断と言える。中国のテック企業バイトダンス(Bytedance)は 2017年11月にリップシンクアプリ企業ミュージカリー(Musical.ly)を買収2018年8月に同アプリをTikTokとして世に出すと、金に糸目を付けないオーディエンス獲得作戦に打って出た。2018年度、バイトダンスはTikTokの販促に10億ドル(約1080億円)を投じたと、ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)は報じている。その結果、2019年2月現在、TikTokの月間利用者数は2650万人、利用時間は1日平均46分に上ると、TikTokは同月、広告主に向けたピッチデックで発表した

しかし、著しい伸びを見せている一方、成長は決して順調とは言えない。技術系ニュースサイト、ザ・ヴァージ(The Verge)によれば、新規ユーザーの「過半数」がTikTokの利用を30日以内に止めている。そのあたりに、このメールマガジン――そして、TikTokがこれまで行なってきたクリエイターへの魅力攻勢(および約数千億円もの広告出費)――の理由があると思われる。

パブリッシャーに対する魅力攻勢

メールマガジン発行の目的は、メディア企業にとって魅力的なトレンド情報をプラットフォームに出る前にいち早く伝えることにあると、メルマガ受信者らは語る。こうした内部情報は、メディア企業にしてみればありがたい。というのも、TikTokはいまだ、先行のSnapchat(スナップチャット)と同じく得体の知れない存在であり、企業はその独特な方式に馴染めていないからだ。たとえば、YouTubeではひとつのトレンドが数カ月も続くが、TikTokの場合、賞味期限ははるかに短く、わずか数日で飽きられ、オーディエンスはまた別の何かに飛びつくと見られている。「TikTokでは、回転が猛烈に速い」と、メルマガを受信する某メディア幹部は断言する。

次に推すトピックを知らせるメールマガジンをメディア企業に送るという行動は、ほかのプラットフォームにはない極めてユニークなものだと、受信者も非受信者も口を揃える。このメルマガはメディア企業との長期的協力関係を積極的に求めるTikTok側の意思表明であり、そんな友好姿勢をメルマガの受信者である別のメディア幹部は「新鮮」と評する。

メールマガジンは実際、TikTokがメディア企業に対して広く展開する魅力攻勢の一環だ。同社は以前からクリエイターを厚遇しており、彼らをプライベートイベントに招き、クリエイターからなるグループもSlackで作成・運営している。また、クリエイターとパブリッシャーに認証済アカウントも提供しており、これは一見、些細なことに思えるかもしれないが、ソーシャルプラットフォームにおける公人にとっては、非常に重要な意味を持つと思われる

さらに、TikTokライブストリーミングといった新フィーチャーに対して、クリエイターとパブリッシャーにいち早くアクセスさせてもいる。同社は特定のクリエイターとともにライブストリーミングの試験を続けており、6月に行なわれた大統領選民主党候補による第1回討論会では、NBCニュースにライブ動画をストリーミング配信させた。ニュースメディアとしてはNBCが初だと、同ニュースの広報は当時語っている。

パブリッシャーや影響力のあるクリエイターに自社プラットフォームを使ってもらえれば、彼らがTikTokを利用している事実――そして必然的に、インスタグラムといった他のプラットフォームにおけるその事実の周知活動(TikTok動画の有力な宣伝手段のひとつ)――は効果的な無料広告として機能してくれる。そして、それを機にユーザーや利用数が増えれば、同社が2019年1月に広告を試験導入して以来狙っている広告費獲得の一助になる。

NBCニュースやESPNをはじめ、いくつかのメディア企業はTikTokの利用に積極的だ。そのひとつ、ファースト・メディア(First Media)はハッシュタグトレンド予想を巧みに活用し、3カ月前にTikTokの利用を始めて以来、食に特化したパブリケーションSo Yummy(ソー・ヤミー)のオーディエンスを100万人にまで伸ばしている。

3カ月程前、ファースト・メディアはハッシュタグトレンド予想のなかに人気DJマシュメロ関連のものを見つけ、既存のSo Yummy動画を作り直し、マシュメロをスーパーヒーローに扮して登場させた。この動画がTikTokのDiscoverタブ内に収められたと、ファースト・メディアのチーフプロダクトオフィサー、ユーヴァル・レクター氏は語る。すると、短期間で状況が一変するTikTokの特性が活かされ、同動画は168,900いいね!を獲得した。この記事の執筆時点で、So Yummyによる全76のTikTok動画のうち23位のいいね!数だという。

静観の構えを見せるパブリッシャー勢

ただし、静観の構えを見せているパブリッシャーも少なくない。TikTokからメールマガジンが送られてくるが、効果的戦略をいまだ見出せないため、同プラットフォームを利用していないパブリッシャーは複数いる。さらに言えば、そうしなければならない緊急の必要性もない。 インスタグラムのIGTVと同じくTikTokはいまだ、メディア企業および有名クリエイターに同プラットフォームの優先を促すマネタイゼーションプログラムを導入してないからだ。パブリッシャーの静観姿勢はまた、地位を確立しきれていない新興プラットフォームを積極的に利用することへの不安の表れでもある。

メールマガジンの意図がパブリッシャーやクリエイターにTikTokハッシュタグトレンドを十分に活用させることにあるとはいえ、メディア企業にしてみれば、その情報の有用度はいまだ不確かだ。メルマガの情報をTikTok用の動画制作の参考にしている複数のメディア企業も実際、それが動画の閲覧数やエンゲージメント率に与える効果の程は、現段階では測定しようがないと語る。

メールマガジンを受け取っていないパブリッシャー勢も同様に、TikTokに有効なコンテンツとそうでないものとの見極めに依然として苦労している。「ブランドにしろ、デジタルパブリッシャーにしろ、絶対的な法則を見出せたところは1社もないと思う。理由の一端は、あのプラットフォームの得体の知れなさにある。急激な成長と進化もその一因だ」と、メルマガが送られてきていない某パブリッシャーの情報筋は指摘する。

Tim Peterson(原文 / 訳:SI Japan)